2023.12.28

言葉になる手前の何か

映画『裏切りのサーカス』のエンディングには心を動かされるものがあるのだが、 それが何なのかうまく説明できないし、よく分からない。 俳優たちの表情や眼差しから伝わるもの、そこで流れているラ・メールという音楽の影響もあるのだろう。

AppleTV+で『フィンガーネイルズ』を観た。そこでもラ・メールが流れる場面があった。 ラ・メールという曲には心を動かされる何かがある。

『フィンガーネイルズ』は俳優たちの表情に魅せられて最後まで観た。 何だかよく分からない妙な設定や謎な感じがあるのだが、それらはあまり気にならず、 とにかくメインの三人の表情や眼差し、言葉になる手前の何かが、 とても良かった。それと要所要所で流れる音楽にも乗せられて最後まで引き込まれた。

2023.11.26

書き出しと終わり

イアン・マキューアンの『甘美なる作戦』という小説を読んだ。面白かった。 硬派なスパイ小説のような重たいフレームに、昔のアメリカ映画にあるようなロマンティック・コメディー というのか何というのか分からないが、そういう軽い調子が乗っかった感じ。 文学好きだけど数学に非凡な才能があるというので数学科に入ったら、 実際それほどの才能はなかったという経歴の美しいスパイと、 将来が期待される若い小説家のロマンス。書き出しと終わりが面白い。 Sweet Tooth という原題も良い。

2023.9.23

似合わないのか、見慣れていないだけなのか

キャップ。いわゆる野球帽のような帽子が、私には似合わない。 今年の夏にNEW ERAを買った。やっぱり似合っていない。 でも待て、「似合わない」は「見慣れない」かもしれない。 見慣れてしまえば、似合うと言える? なわけないか。 いやいや、でも結構近いところじゃない?  めげずに被っている。そのうち見慣れるというか、 慣れてしまえば、似合っているかどうかなど構わなくなる。 そのうち秋になる。まだ暑さは残る。

2023.9.21

不確実性と可能性

民主主義にはルールが欠かせないが、ルールは可能性と制約を同時にもたらす。 また代表制民主主義の国においては不確実性を制度化する。 が、そう言われると穏やかではいられない。 手に汗握る熱戦を求める観客ならいざ知らず、 いったい誰が不確実性などをありがたがるというのだろう(中略)

けれど、一定のルールの枠内における結果の不確実性は、 民主主義のダイナミックで、(望むらくは)クリエイティブな性格を指し示すものだ。 民主主義は考えや利益、アイデンティティの新たな表出に対してつねに開かれたものであらねばならない。 民主主義は可能性のなかに宿るのだから。

ヤン=ヴェルナー・ミュラー 山岡由美 訳『民主主義のルールと精神』
2023.8.21

前提、あるいは心得

これまでの分析でどこまで目標が達せられたかは、読者が判断することだ。 経済学は観察し解釈する科学にすぎず、本書で論じるような問題では、 意見の差を縮めることはできても、なくすことはできない。

ヨーゼフ・シュンペーター 大野 一 訳『資本主義、社会主義、民主主義』
2023.6.20

普遍的な何か、だと思っていた何かとは何だったのか

自分がもう世の中の動きについていけてないと気づいて愕然とする人間のめまいが、十分に語られることはない。

(中略)

私はいま、自分がなにもわかってないことを自覚している。

(中略)

自分の生きている時代の言葉が使えない。どれがそれだか見分けすらつかない。

アベル・カンタン 中村佳子訳『エタンプの預言者』

まだ途中だが、『エタンプの預言者』という小説が面白い。かなり面白い。 ここ数年、衰えていく自分自身を意識せざるを得ないわけで、 老いとか若さとか無駄にあれこれ考えてしまう自分にとって、 自虐か皮肉か矛盾か、良いのか悪いのか、そういったあれこれ含めて、 面白い小説。

2023.3.21

起源・拡大・現在

ある意味では、すべての時代、すべての地域、すべての文明が、 それぞれにふさわしい資本主義をもっている。 現時点では、資本主義に対して優位に立つオルタナティブの存在を確認することはできない。

ユルゲン・コッカ 山井敏章訳『資本主義の歴史』