2021.8.30

夏休みの終わり、夜

ベランダから眺めると、木星と、たぶん土星と思われる星が絶好の位置だった。エアコンの室外機から出る熱風の横で汗だくになりながらピントを合わす。たぶん、土星だよ、あれが。ラプトル50のファインダーの素晴らしさは、ただただシンプルだということ。狙いを定める。微かに揺れる、震える、止める。ぼやけた楕円形が見えて確信する。やっぱり土星だ。ピントが合って、とてもとても小さいが、土星の輪がはっきり見えた。すぐ動いてしまうから、そっと、見て。子供たちが交互に覗き込む。美しい、という小さな声が漏れた。それだ、私もそれが言いたかったんだ。その言葉がとても自然に聞こえた。

2021.8.7

千年

ぬるい風が吹いていた。エアコンが壊れたのかもしれない。暑さの中で数時間過ごしているうちに、取り留めのないことを考えていた。

過去に対する時間の距離感が、年をとると変わってしまうように思う。10年前の出来事がつい最近のように感じるし、30年前でも、ちょっと昔ってくらいに感じる。そう思うと、100年だってあっという間のことかもしれない。千年なんて途方もないスケールだと思っていたけれど、案外それほどでもないのかもしれない。

2021.5.3

別の個性

子供に、つい余計なことを言ってしまい、後になって反省することがある。子供のために、と思ったことでも、よくよく考えてみると、実は親自身の望みに過ぎないってこと、あるだろう。

子供は、親とは違う別の人間だ。そんな当たり前の事実でも、そう簡単な話ではない。長い時間をかけて成長を見守っているうちに、まるで自分の分身のように子供のことを思うのは自然なことかもしれない。同じ価値観が共有されるものだと思い込んでしまっているかもしれない。だが、違うのだ。自分とは違う性格、違う価値観を持つ、別の個性なのだ。子供自身の領域であっても、親はつい自分の価値観や感情で踏み込んでしまう。だから意識して理解する必要がある。子供は自分とは違う別の人間であることを。親は子供に対し敬意をもって接することを忘れてはならない。自分とは違った性格や価値観を持つ、別の個性であることを、受け入れなければならない。

2021.3.30

春の海

息子は貝に夢中で、我が家のリビングの片隅で「貝研究所」と称し、集めた貝殻を眺めたり、図鑑を開いて、貝についての何かを猛烈な勢いで書きまくったりしている。本人でもかろうじて読めるような乱雑な文字だが、活力に満ちている。そんな彼も4月から小学生になる。春休み。私たちは海に出かけた。潮が引いて、浅い海が現れる。生きている巻貝を観察する。動く。動く。

2021.2.25

海外ドラマ甘口レビュー3

星三つ「心動かされる」
星二つ「良い」
星一つ「もう少し」

title star review
レクティファイ(Hulu) ★★★ 主人公に苛立つ気持ちを堪えて見続ける価値はある。登場人物たちは丁寧に描かれているので、次第に物語に引き込まれていく。人は皆、不完全であり、自分自身との格闘の連続であり、時に美しい光に包まれ、これは夢か現実か、と自問する。人生は続く。
クイーンズ・ギャンビット(Netflix) ★★★ ストーリーだけでは特別な感じはしないけれど、才気溢れる個性的なアクターを活かし、緻密にスタイリッシュに仕上げるバランス感覚が素晴らしい。直感、固執、諦念、決断が瞬時に交差する早指しチェスのように疾風のように駆け抜ける。
DARK(Netflix) ★★★ 暗がりには、何層にも積み重なった深みというか、可能性の奥行きとでもいうような、知覚に訴える何かがある。時空を超えて複雑に絡み合う人々や物語を整理するのは難しいが、静謐なトーンの美しい青春群像劇といえるかもしれない。SFのなかのタイムマシンは、いつだって妙な形をしている。
運命の12人(Netflix) ★★ 事件は難解だが、陪審員に選ばれた人にだってそれぞれの生活や人生がある。いつもの自分の生活とは全く何の関係もない、突然降ってきた異質な状況ともいえるし、それは思ってもみなかった変化のきっかけになることだってあるのかもしれない。
コブラ会 シーズン1(Netflix) ★★ 「続編」の概念を覆す怪作、快作。中年になってからの記憶の中の「若さ」は無敵の輝きであり、それが念力のようにジワジワと威力を増し、まるでコントのように滑稽に、驚き、うろたえ、惑わせる。
カレッジ・フレンズ(Netflix) ★★ 40代で学生時代からの友達グループでドタバタ喜劇なんて、これはもうファンタジーか。だが年をとって色々と感じることもある。シーズン2で打ち切りは残念。
ペーパー・ハウス シーズン1,2(Netflix) 造幣局襲撃という大胆な計画にハラハラするだけでなく、随所に斬新な面白さもある。
テッド・ラッソ シーズン1(Apple TV+) コメディとしては緩いが、心温まるドラマとしては面白い。
スウィディッシュ・ディックス シーズン1(Netflix) 単純だが面白い。主役の冴えないコンビが、いかに冴えないか、というのがこのコメディの要だとしたら、まさに空気がよどむような冴えないオーラをうまく出せていると思う。